samansa59’s blog

訪問看護の仕事の中で感じたことなど自由に書いていきます。

日本男児

その患者さんは、戦争中にゼロ戦に乗っていた。あと数日終戦が遅かったら、今の自分はなかったと言う。胃癌で寝たきり状態であった。

86才の妻は認知症が進行し、さっき行っていたことも忘れ、何度も何度も同じ質問を繰り返す。「看護師さん、私薬飲んだかね」「今、飲まれましたよ」「看護師さん、私薬飲んだかね」・・・・私たちの前では、妻はいつも穏やかであった。

週3回患者さんの家には訪問していた。訪問する度に、患者さんの腕や足は内出血痕で真っ黒になっていった。本人に聞くと「ベッドの柵にでもぶつけたんだろ」と言う。

それにしては、いたるところ真っ黒に変色しているけど・・・

ある日、娘さんが言った。「父は黙っていますが、母の顔つきが変わるときに、父の腕や足をつねっているんです。叩いたりもします。私見ました。でも父は絶対、母がやっとことは言いません」

妻は、満州から引き揚げたときの苦労話や、カリエスを病んで闘病生活をしていた頃のことを毎回話して下さった。

夫婦二人で戦時中、戦後生き抜いてきた。私たちには想像ができないくらい、大変な時代であったと思う。

どんなことをされても、妻のことを守る。日本男児という言葉が頭に浮かんだ。

患者さんの人生、背負ってきたものが とても大きいものであると感じた。