訪問看護師になった理由
病院勤務は夜勤もあり大変であったが、心臓病の中枢を担う病棟でやりがいを持って働いていた。しかし、高齢者は積極的な治療ができず、重度の心臓病を患っていると、安静を強いられ長い闘病生活を送っていた。
ある日、85才女性の病室を訪れた時のことである。「ここに寝ていても生きている実感がない。家に帰りたい。家では、線路を走る電車を眺めては暮らしていた。電車がみたいなあ。いつまで入院しないといけんですか?」
まだ社会的入院の許されていた時代である。患者さんは何カ月も入院することができた。家族には都合がよかったかもしれないが、患者さんのQOLは治療という名のもと
著しく阻害された。
この患者さんを家に帰してあげたい。
その時はまだ、自分自身訪問看護という存在を知らなかった。
その頃、丁度次男も多感な時期を迎えていた。
「お母さんは、自分が相談したい時に、いつもいないじゃないか!」
勤務の関係で、何日も子供と顔を合わせない日が続いていた。
子供の言葉は、心に刺さった。
そんな時、地域の運動会で子供の同級生の母親で看護師をしている方と話す機会があった。
「久しぶり!今どこで働いているの?」「訪問看護ステーション」
「へー、どんなことするの?」
いろいろ話しを聞いていくうちに、自分も訪問看護をやりたいと思った。
「あの患者さんを家に帰してあげれるかもしれない・・・」
訪問看護なら夜勤がないから、子供と毎日コミュニケーションがとれる・・・
翌年の3月、病院を退職して、話しを聞いた看護師さんのステーションへ就職した。
その1年半後に、自分が管理者となりステーションを立ち上げた。
今、訪問看護の仕事を「天職」と感じている。