samansa59’s blog

訪問看護の仕事の中で感じたことなど自由に書いていきます。

赤い糸

78歳夫婦二人暮らし。内縁関係であったが夫が肝臓がん末期と診断された昨年に入籍をした。妻は本当に献身的に介護をされていた。朝から晩まですべて夫のために時間を費やした。内縁関係が長かったため、近所付き合いは全くない。子供もいない。毎日入る訪問看護師との会話だけが、妻にとってと慰めだった。食が細くなれば、朝5時に起きて野菜を蒸し、裏ごししてペーストを作る。何時間も煮込み肉を柔らかくする。頻尿である夫は、夜間5回トイレに行くが、すべて付き添った。妻はいつ寝ているのだろう・・・と思わせるような働きぶりだった。

終末期になり、妻へは予期的悲嘆に対する説明を重ね、最期の時を穏やかに迎えられるように準備した。そして夫の他界。

ご遺体を葬儀場に運ぶときに、妻は夫の小指に赤い糸を結んだ。

あの世でも一緒になれますようにと、妻は願っていた。

1週間ほどして訪問。遺影の前で座り込む妻。少し痩せてみえた。「ちゃんと食べていますか?」「食べているよ」介護していた時のことを話しながら、延々と涙を流す妻。

最初は言葉をかけていたが、その悲しみの深さに最後はかける言葉を失った。

妻の様子をみているうちに、後追い自殺をするのではないか?と脳裏をよぎった。

「決して、命を絶つようなことはしないで下さいね」思わず言葉にでてしまった。

「そんなことはしないよ。自殺すれば地獄に落ちる。そうなれば、あの世であの人に会えないじゃない」 弱弱しく微笑んだ。

外には、夫の車が処分せずに置いてある。その車はお守りとして、ずーと駐車場においておくとのこと。

「何か困ったことがあったら、電話くださいね」 家を後にした。

あの世でも、赤い糸で結ばれた人と会えますように・・・心の中で深く思った。