最期の写真
70代男性肝臓がん末期状態。CVポート管理で在宅移行となった。自営仕事をしながら妻は介護にあたる。嫁いだ娘さんは病院の看護師。2か月後に結婚式をあげるという。父親である患者さんは、結婚式出席を夢見ていた。しかし、どんどん進行する病状。あまり残された時間がなかった。看護師の娘さんに会う機会があった。現状を説明し、残された時間がない事や娘さんの花嫁姿を見ることをとても楽しみにしている事を伝えた。しかし、式場はすでに予約している。変更はできない。 せめて花嫁姿だけでも見せてあげてくれませんかとお願いした。
無理を言っていることはわかっている。でも患者さんの娘さんに対する深い愛情に応えたかった。娘さんは水面下で準備をして下さっていた。親戚にも声をかけてくれた。
当日、娘さんはウエデイングドレスを着てとてもきれいだった。娘さんの彼氏もタキシードを着られた。15人ほどの親戚の方も着物をやタキシードを着て、すべて正装で出席して下さった。呼吸困難が出現していたため、患者さん本人にタキシードを着せるのに看護師二人でも苦労した。
全員で記念写真。SpO2値がかなり低かったが、写真撮影の10分程度、酸素は外してくれと言われた。娘の晴れ舞台にきちんと写りたいと・・・
黄疸が強く、あまりいい顔色ではなかったが、最高の笑顔だった。
それから2日後、天国へ旅立った。
2週間後、ステーションへ娘さんから手紙が届く。自分は小児科勤務で看取りの経験がないので病期がわからなかったと書いてあった。残された時間がない事を教えてもらい、家で父親と一緒に結婚式の写真を撮ることができ一生の思い出となったと感謝の気持ちが書かれていた。手紙とともに全員で移った写真が表装されて同封してあった。
今でも時々、机の中から取り出すこと写真。私達の心に残る思い出となった。