やり遂げる
80才代男性。胃癌末期。CVポートからの高カロリー輸液での退院であった。
自分に残されている時間が少ないとわかっている患者さんは、人生の最期までにやり遂げることを決めていた。
旧友と大好きな山での再会、200冊ある本の整理、80才になる妻が、まだオートバイ(カブ)に乗っているため、事故を心配して3輪電動自転車に買い替えた。息子さん・娘さんを全員集めて遺言も伝えた。親戚の法事には、体調がかなり悪かったが出席して親戚一同に挨拶した。
このように書くと、すべてスムーズに行えたように感ずるが、全身倦怠感、腹部や背中の痛み、思うようにことが運ばない苛立ち、認知症が悪化していく妻の心配などさまざまな苦難を乗り越えて成しえたことだった。
最期、モルヒネ持続注射で痛みなく、眠るように息を引き取った。
家族が事務所に挨拶にみえた。「父は自分のやりたいことすべてやっていった。亡くなった時の顔は微笑んでいるようにみえた。本当にありがとうございました。」
覚悟を決めてやり遂げる。なかなかできないことである。