介護の限界
70才後半の多系統委縮症の妻は、どんどん嚥下障害が進み、経口摂取できなくなっていった。
誤嚥性肺炎を繰り返し、医師からは胃瘻を造るか、このまま自然に任せるかのICがなされた。苦労を共にしてきた妻を見放すことができなかった。
「胃瘻にして下さい。自分は最期まで妻をしっかり介護したいんです」
動かない体で、患者さんは訴えが多くなった。
「座らせて、指が痛い、背中が痒い・・・」指が痛いというので、手にハンカチを持たせ指が当たらないようにしたが、5分ともたず「ハンカチとって・・・」
夜間、吸引が必要だった。声が出にくくなってきたため、夫は指でひもを少し引っ張れば鈴がなる装置を手作りした。一晩中、鈴が鳴った。夫は眠れない。結局、その装置は使わなくなった。
看護師が訪問している時、夫の咳がひどい。「明日患者さんがデイサービスにでかけている間に受診してね!」
結局受診はしていなかった。患者さんが週3回デイサービスに出かけている時に、アルバイトをして働いていたのである。ケアの傍らで居眠りをする夫の姿が多くなった。
限界がきていた。レスパイト入院を手配した。
妻への献身的な思いは変わらない。
しかし、確実に夫も年を取っていくのである。
介護の限界。思いとは裏腹な現実があるのである。