samansa59’s blog

訪問看護の仕事の中で感じたことなど自由に書いていきます。

命の値段

70才男性。肺がん末期状態。妻に先立たれ 男で一つで二人の子供を育てた。長男夫婦と孫と同居。長女は嫁ぎ、夫の家業を手伝っている。長女には4つ子がおり、育児と仕事で忙しい毎日を送っていた。

肺がんの病状が進行する中、熱発を機に脱水となった。しかし、点滴を頑なに拒否するのである。医師と看護師で幾度か話を聴くうちに意図がわかる。「自分はあと1か月のうちに死ななければならない。そうしないと長女に400万円の保険金がおりない」 生命保険の受取人を長女にしていたのである。それを知った長女は「命を粗末にしないで、私のためにも生きて!お父さん」医師の説得もあり、補液を行い病状は安定した。

日にち単位になった段階で、私は長女に電話。「2~3日でいいのでこちらに寝泊まりして介護できませんか?」本人が長女に思いをはせていることはわかっていた。一緒に住んでいる長男には目をかけられるが、遠くに嫁いだ娘さんのことが一番気がかりだったのだ。娘さんは4つ子を義母に任せ、来て下さった。できるだけケアは一緒に行った。看護師が清拭するより、ぎこちない手で娘さんが行った清拭に、本人はやわらかい笑みを浮かべた。

本人の横に布団を敷き夜も過ごされた。娘さんが帰らなければならない日の昼間、急に容態が悪化。息子さん夫婦、娘さんに見守られ 天国に旅立った。

大切に育てた子供さんたちに見送られ、幸せであったと思う。

大切な命に値段などない。