10時30分
「ちょっとそこまで来たから寄った。10時30分になっても誰も来ないから」
その夫の妻は60歳代で膵臓がんで亡くなった。夫の定年後、これから二人で旅行でもしようかと思っていた矢先のことである。
家事をしたことのない夫は、一生懸命介護しながら家事をこなす。いつ訪問しても、整然ときれいに掃除されており、くったくのない笑顔で迎えてくれた。
高カロリー輸液を行っていたため、訪問看護は毎日10時30分に訪問していたのである。
夫は、何度も事務所に訪れた。グリーフケアが必要と感じた。
看護師2人で自宅を訪問。世間話をしながら3人で笑った。
息子さんに作ってもらったという、妻の写真が入ったキーホルダーを持っていた。
「これを持って、いつでも妻と一緒に外出している」
「いつまでも世話になってはいけないと思っている。今日はありがとう。もうこれで最後にしよう」
看護師が「また来るね」という申し出を、夫は断った。
まだもう少し、見守っていく必要がある。