富士山登山
70才代男性 胃癌肝臓転移の末期状態。治療効果なく緩和目的で訪問看護開始する。
富士山に10回以上登頂、フルマラソンも何回も出場するなどスポーツマンであった。
肝腫大で腹満があるにも関わらず、ジーパンをはいている。「お腹、きつくないです
か?」「これが、おれのスタイルだから・・・」
下肢浮腫が著明となり、転倒をするようになっても妻の支援を拒んだ。「助けてもらっ
ては病人になる。自分でできるうちは自分でする」妻は訪問看護を毎日臨んだが、本人
が週1回でいいと言った。もうすでに日にち単位であったため、早い段階で寝たきりに
近い状態になった。訪問看護の回数を増やした。「富士山にもう一度登りたい・・・」
叶わぬ夢であった。しかし、壁、天井に昔登山していた時の写真を大きく引き伸ばし、
いたる所に貼ることで、少しでも富士山とともにいる空間をつくった。
そして永眠。穏やかな最期であった。
訪問看護師がエンゼルケアをした。衣裳は登山服。その人らしい、死に装束であった。